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2024/11/22(Fri) 07:50:32
月の繭をエンドレスで聴いてます。
沙慈とルイスが見た地球と、兄貴の見た地球は違うものなんだなあ…

兄貴の独白SSS。23話。




 小鳥を拾ったことがあった。何の種類かは知らない、白くて綺麗な羽をしていた。この辺りの小競り合いの流れ弾に当たったのだろう、羽の付け根が赤く染まってばたばたともがいていた。気まぐれに拾って帰り、おざなりな手当てを施した。鳥は、自らの置かれている状況が分かるらしくもう飛ぼうとはしなかった。傷が治るのをじっと待っているらしかった。
 故郷を思い出すとき、何故だろう、いつも曇天の空が思い浮かぶ。たしかその日も空は雲に覆われていた。鳥の傷がすっかり癒え、包帯を解いていよいよ飛び立とうという日だ。鳥は感覚や筋肉が戻らないのか、数度羽ばたいてはバランスを崩しよたよたとよろめいた。けれども一度虚空を見つめて静止したかと思うと、ただ真っ直ぐに飛び立った。足元には鳥の羽が何枚も散らばっていて、冷たい風がそれを吹き上げていった。鳥の飛んでいった空を見つめると、何故だろう、自由の象徴であるはずのそこは、酷く息の詰まる場所に思われた。灰色の雲。俺はどこにも行けない。
 あの鳥は、青空を見ただろうか。


 トレミーの窓から見る地球は美しかった。青くてずっとずっと昔に遊んだガラス玉のようにきらきらしていて。けれどもその中身はどろりとした汚泥だ。滴る血と爆煙と戦火が満ちる世界だ。俺にはそれが反吐が出るほど嫌だった。だから変えようと思った。全てがよくなるなんて幻想を抱いている訳じゃない、少しでも世界が変わればいい。その歯車になれれば。
 不意に、脳裏を故郷の曇天が過ぎった。閉塞感に支配される。その感覚から逃れようとするけれど、俺の脳は勝手に記憶を引き出し続ける。戦場の記憶だ。右手の指はトリガーを引くために、左手は銃身を支えるために。この目は照準を合わせるためにあった。今もそれは変わらない。全てを壊されたあの日から、それは変わっていない。
 その日まで、俺の右手はエイミーの手を引くために、左手はライルと繋ぐために、この目は父さんと母さんを映すためにあった。俺は一度死んだのだ。死んで、作り変わった。この体は戦うためのものになった。それで良かった。



 宇宙に生身で放り出され、逆さの地球が見えた。青い。片目を刺すように眩しい。海の青だ。俺は、世界なんか嫌いだった。いつだって曇天だ。太陽なんか見えやしない、青空なんか隙間もありはしない。どこにもいけない、なにも変わらない、なにも、変えられないまま、俺は。

 ライルの見上げる空はいつだって晴天であってほしかった。すかんと、抜けるような空を、どうか。美しい空を、美しい世界を、どうか見つめて生きてほしい。目を閉じて祈った。あらゆる神に見放されていると笑いながら、何かに祈った。


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2008/03/17(Mon) 07:39:21
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