ビリグラ。ビリ→グラ?
カタギリ一人称で、暗いです。
グラハム視点も書くかもしれない
1日中ラボに篭もっているのは稀なことではない。ラボと仮眠室とコーヒーベンダーの置いてある休憩室の3部屋を往復していると、自然日々は過ぎていった。この基地に詰めている研究者の大体はそんな風だった。
我らがエースパイロットと僕は、友情のちょっと行き過ぎた関係にあって、3日と置かずにセックスをする。そういう生活だから、彼が僕を訪ねるのがほとんどだ。何時にどちらの部屋、という一言を告げに彼はよく現れる。曰く、口頭が一番セキュリティが高いので。
今日もそんな風で、気紛れに差し入れを持ってきてくれたようだが、目的は変わることはない。勿論友情の範疇では僕の過労を心配してくれるようだが、それはポーズで、本当は作業能率を気にしているのではないかと僕は疑っている。彼への想いと関係をこじらせすぎて、僕はそんなところにまで疑いを向けるようになった。彼を信用していないのと同じだ。その点でも、僕らはもう友人ではなくなってしまっているのかもしれない。
「あまり無理をするな。適度に休んだほうがいい」
コーヒーを啜りながら彼が言った。熱かったのか、ちょっと舌を出してカップをテーブルに置く。休憩室には僕らしかいなかったので、カップを置く音が随分大きく聞こえた。
「夜眠らせてくれない誰かさんのせいで、しょっちゅう限界まで疲労するんだけどね」
「では、カタギリは眠っているといい。勝手にするから」
彼はそう言って悪戯っぽく笑った。やりかねないから恐ろしいのがグラハムである。僕は肩を竦めて苦笑したが、内心冷や汗ものだった。夜這いをかけられないように、ゆっくり休みたい時は部屋に鍵をかけようかなと考える。直後に、スペアのカードキーを彼に渡しているのに気づいて軽く絶望した。
「そういえば、夢にカタギリが出てきた」
僕は口に含んでいたコーヒーを噴出しそうになった。
「…君がそんなに僕を愛してくれてたとはね」
軽口を叩いて自分を落ち着ける。他意なく僕の好意に肥料をばら撒き、水をやるのは止めて欲しい。こっちはいつも君への気持ちに溺れそうなのに。せめてもの抵抗で何でもない振りをする。こんな小さなことで喜ぶ僕も僕だった。
「どこかの国では、出てきた方が夢を見ている者を想っている証だと言うじゃないか」
にやにやと笑うグラハムが急に憎らしくなった。それを君が言うのか。分かっているくせに、言わせてはくれないくせに、何も与えずに僕から奪っていくくせに。
「傲慢なんだね」
存外冷たい声が出た。しまった、と思ったが、もうどうでもいいような気もした。皮肉る口調ではないと彼にもわかってしまうだろう。僕は何だか笑い出したくなった。これでもし終わったら、本当に笑える話だ。たかだか夢の話で。僕はコーヒーのカップをテーブルに置いた。音が大袈裟に響いた。
「怒るな」
「呆れてるだけだよ。別に否定もしないしね」
「カタギリ」
「データの解析が進まなくて苛々してるんだ。作業に戻るよ」
「カタギリ、」
僕は彼の言葉から逃げるみたいに休憩室を出た。追ってくる男じゃないのは分かっている。部屋さえ出れば、逃げ切ったのと同じだった。
グラハムの奔放さや傲慢さを愛し、才能と努力に心酔した。彼のために全て投げ打ってもいいと本気で思っている。命じられずとも彼のためなら本当に何でもした。なのに、それが時折こんな風にどうしても堪らなくなる。彼は僕のものにはけしてならない。それがひどく苦しくて苛立たしかった。
自己嫌悪に陥りながら、ラボに戻った。僕の不機嫌を感じ取ったのか、誰も話しかけてこない。正直ありがたかった。多少周囲に申し訳なく思いながら、解析するデータを開く。キーボードに自分のIDを打ち込んだところで、休憩室のテーブルに飲みかけのコーヒーを置いてきてしまったことに気づいた。
僕は、彼があれからどうしたのか夢想した。冷めたコーヒーを、彼は捨てただろうか。
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