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2時間かけて書いてたデータが消えましたorz 目の前の生命が失われていくその感覚を忘れない。吹き飛んだ足を、抉れた頭蓋を、爛れた右の顔を、糞尿にまみれた身体を、吹き上げる血を、悲痛な断末魔を、伸ばされた手を。私は、決して、忘れない。 情事の後の心地よいまどろみの中、散歩に行かないか、という声を聞いた。それは、注意して聞かなければ聞き逃してしまうような小さな声だった。僕が聞き返せば、彼はその思い付きを二度と口にしないだろう。そういう類の声だった。彼がやけに幼く見えて、その頬を手の甲で撫でて返事に代える。その頬をちょっと抓ると、彼は少しだけ笑った。 軍服で僕の私室に来ていた彼の為に、以前気に入ったと言っていたファー付きのダウンを貸してやった。ジーンズとワークブーツを履くと彼はまるで少年のように見える。実は寒がりだと知っていたから、マフラーも巻いてやった。僕はセーターにジャケットを羽織ると、彼の手を引いて部屋を出た。ひどく冷たい手だった。 1月も半ばを過ぎた夜中だ、さすがに冷え込む。白い息を目で追いかけると、いつもより輝く星々が見えた。こんなぴんと張り詰めたような澄んだ空気の中、昔はよく星を見ていた。もちろん望遠鏡も覗いていたが、肉眼で見上げる夜空は身体の中をフラットにしてくれる気がして好きだった。 「むかし、月がこの世界の出口のようだという一文を読んだことがある」 彼は空気に溶けるような声で言った。本当に珍しいことだった。彼の声はいつだって凛と響いていたから。彼の目は遙かに小さく浮かぶ月をぼんやり見つめていた。僕は彼の手に絡めた指にそっと力を籠めた。 20分程歩いただろうか。住宅街の外れにある小さな公園に着いた。いつになく寡黙な彼の様子を窺いながら公園に入る。彼は異論ないようだった。絡めていた手を解いてベンチに腰を下ろすと、冷え切った座面と急に冷気に晒された掌のせいで背筋が震えた。 「カタギリ、私は」 彼は先ほどと同じ静かな声で言った。彼は僕の方を見ていない。ちょうど木の陰から見える月を見ながら喋っている。僕はそれに倣って月を見つめた。出口か。するとここはその世界の底なのだ。黒く沈殿する世界に沈み込んだ僕らは、光に目を細め焦がれるしかない。 「今でも覚えている。私の目の前で落ちていくMSを。通信で聞こえる断末魔を。だがもっと悲惨なものを見たことがある」 彼は淡々と喋った。まるで人形のようだった。そんな彼を僕ははじめて見た。 「まだ君に逢う前だな。テロの制圧と被害者救助に向かった時のことだ。オートマタの入れるような状況ではなかったから、私たちはMSを着陸させて生身での任務にあたった。私にとって初めての実戦だった。MSのパイロットになって1年くらい経っていたかな。私はその頃まだ准尉だった。上官の指示通りの配置に付き、合図と共に乱戦の中に入っていった。爆破された後だったから、煙も炎の勢いも凄まじいものだった。そこここに吹っ飛んだ人間が折り重なっていたし、蛋白質の焼ける嫌なにおいがしていた。私は動揺していた。視界は最悪だというのに、何処に敵がいるのか全く分からない状況だ。指示通りならば廊下を直進する筈だったが、疑心暗鬼にかられた私は物音のした扉を開けてしまった。バディだった私の上官…大尉は、すぐに私を引き戻した。自分が先に入るから後から援護せよと言って、大尉は部屋に入っていった。私が入ろうとしたその瞬間に、物凄い熱風と爆音が襲ってきて、気付けば壁に叩きつけられていた。瓦礫が散らばり、水道管から水が噴出していた。私は一体何が起こったのかわからずに呆けていた。爆音を聞いて駆けつけた仲間が私を引き起こして、何があったのかと訊き、私が答えぬうちに焦れたのか部屋の中に入っていった。私が追いかけると、そこに大尉がいた。…いや、はじめ私には大尉だとわからなかった。足と腕が吹っ飛んで、肌と言う肌は爛れていて、頭蓋が抉れて骨と脳髄が覗いていた。下腹を瓦礫の破片が貫いているせいで、糞尿の臭いがした。それでも大尉はまだ生きていた。いっそ即死した方がどんなにマシか知れないのに、彼は生きていた。私は恐ろしくてならなかった。私のせいだと思っていた。大尉をそんな人間とも分からない肉塊にしたのは私なのだと思うと恐ろしかった。違う。それだけじゃない…それだけじゃない、私はその様が恐ろしかったのだ。抉れた肉も立ち込める臭気も、触れたくなかった、触れたら死が伝染る気がした、臆病だったのだ。彼は私に手を伸ばしていた。そんな力がどこにあったのだろう。でも彼は確かに腕を上げたんだ。そうしてただ、一言すまないと…言って、息絶えた。同僚は私を責めたが、他の上官は経緯を聞いて私を昇進させた。その部屋が唯一つ残ったテロリストの潜伏場所だったんだそうだ。上官一人殺しておいて昇進など、到底受ける気になれなかった。だが上官は、お前は大尉の遺志を継ぐ義務があると言った。私は昇進を受けた」 僕は、彼が泣いているように思えて隣を窺った。彼は先ほどと変わらずに月を見つめていた。この世界の出口。その先を見ているようだった。その先。一体、ここを出てどこへ行くというのだろう。 「お前に話しておきたかった」 彼はそう結んで、それきりまた口を噤んだ。 僕は内心でひどく動揺していた。そんな風に弱さを急に晒されて、戸惑っていた。彼はいつだって風をきって歩き、俯くことなどないように見えた。そんな翳を背負っているようには見えなかった。だから、唐突に彼の柔らかい心臓を握らされたようで恐ろしかったのだ。きつく抱き締めればそれは潰れてしまう。手を離せば冷えた心臓は鼓動を止めてしまう。僕にできるのは、ただ同じように僕の心臓を差し出して、彼の心臓に怖々と触れることぐらいしかない。途端にひどい寂寥が僕を襲った。これ以上僕らは近づくことがないと気付いた。 「何故だろう、とても淋しいよ、カタギリ」 彼は呟いて、一つ息を吐いた。僕は堪らずにベンチを立った。彼を抱き締めたくて仕方無かったが、彼はそれを望まないと分かっていた。それが切なかった。 「グラハム」 僕はともすれば涙ぐみそうな自分を叱咤した。先刻抱いた疑問を、世間話をするような口調で訊ねた。 「月がこの世界の出口なら、その先には何があるんだい」 グラハムはきっとそのまま答えるのだろうと思っていた。しかし彼はベンチから立ち上がり、僕の隣に立った。驚いて隣を見ると、彼はいつものように笑っていた。 「同じ世界さ。救いは空になどない」 「へえ、じゃあどこにあるんだい?」 彼は強く僕の腕を引くと、僕の背に腕を回してきつく抱きしめた。僕は彼を抱き締め返しながら、何かに祈った。 目の前の生命が息づいているその感覚を忘れない。すらりと伸びた足を、輝く金の髪を、皮肉気な口元を、空を翔るための身体を、強く脈打つ鼓動を、凛と響き、時に夜に溶けるような声を、力強い腕を。僕は、決して、忘れない。 PR 2008/01/15(Tue) 22:20:28
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