ネタをくださった柚茶様に捧ぐ!現代パロハムサワ、実は気付いてるコーラネタです。
パトリック愛してます。あいつはすごい男前だよ…!パリジャンかイタリア男だって信じてる!
…ビリグラサイトって胸張って言えません申し訳ありません
ビリーを死ぬほど愛してます大丈夫(お前の頭は大丈夫じゃない
現代パロは全部現代日本風ですorz
始めに書くべきでしたね…
!!!注意!!!
とっても暗いです。
コーラが乙女入ってます。
グラハムが酷い男です。
月に何日か、グラハムは家を空ける。仕事が立て込んでいるとか、出張だとか、飲み会が長引いたとか、理由は様々だ。だがそれらが全て言い訳だということをパトリックは知っている。知っていて、何にも言わない。
二月も半ばを過ぎて、寒さにも慣れた頃のことだ。パトリックはいつもより早く帰宅するとエアコンのスイッチを入れた。部屋が冷たい。靴下を履いていることが苦痛ですぐさま脱ぎ捨てて洗濯機に放り込む。上着とスラックスを脱いでハンガーに掛け、ジーンズに履き替えた。パトリックは、奇想天外な行動が目立つものの基本的に几帳面で真面目である。部屋は片付いているし、大抵の家事はグラハムよりも手際よくこなすことができた。
ベランダに目をやると案の定洗濯物が干しっぱなしにしてある。グラハムだ。彼が定時にあがって真っ直ぐ帰るというから頼んで外に干して出たのだが、彼はまだ帰っていないらしい。洗濯物はともかく、久々にゆっくりと夕食が摂れると思ったのに――。仕事の都合というのが可変であるとわかってはいるが、一緒に暮らすようになるとこういった些細な苛立ちが積み重なってしまうんだろう、とパトリックは考えた。昼の休憩中に既婚者の誰かが零していた愚痴を思い出す。嘆息して部屋の灯りを落とし、ベランダに出た。冷たい洗濯物を取り込む。全て室内のソファに放り投げ、ハンガー類を片付けたところで、手摺にもたれて嘆息した。夜景が美しい。そういえば、ここから2人で夜景を見たことなんてないのだと気付いた。女性との付き合いではないからそんな状況がなくたっておかしくはない。だがロマンチストのグラハムにしてはこのアイテムを抜かすなんて、と不思議に思った。何せ、映画の中から抜き出してきたような気障なことを平気でやる男なのだ。苦笑して、不意にグラハムがよくやるように、ベランダで煙草を吸ってみたいと思った。パトリックとて喫煙しない訳ではない。だがグラハムはしょっちゅうベランダで煙草をふかしていた。思いつくとつい、吸いたくなって、シャツの胸ポケットから煙草を出す。深く吸って煙を吐き出すと、夜空に白い煙が溶けてきれいだった。
早く帰って来て欲しい、と思う。こんな風に一人になると、考えたくもないことばかり頭に浮ぶ。グラハムは今夜も帰って来ないかもしれない。言い訳は一体何だろう。
残業で終電を逃した?(タクシーを使えばいい、或いは俺が迎えに行けば)
飲み会で酔いつぶれた?(俺の前でも酔いつぶれたことなんてないのに)
旧友の家に泊まる?(旧友って誰だ。元彼の間違いじゃないのか)
旧友。その言い訳が一番多い。嘘を吐くときのグラハムを、パトリックは見分けることができるようになっていた。普段鈍感な部類に入るパトリックだが、こと色恋に関しては鋭い。特に恋人の浮気などというものには。嘘を吐く時には、真実を混ぜるのが効果的だ。きっと、相手はグラハムの旧友なのだろう。ただ、それを行過ぎた関係ではあるだろうが。
ゆっくりと溜息をつくと、随分短くなった煙草を吸殻入れに放り込んだ。グラハムが用意したものだ。苛々して、もう1本取り出して口に銜える。カタ、と小さな音がする。そこで初めて、隣家の音が少し聞こえることに気付いた。防音に長けたマンションではあるが、当然ベランダに出れば何かしら聞こえるのだな、と気付く。薄暗い部屋の中が寂しくて、手摺に乗せた両腕に顎を乗せると、目を閉じる。耳を澄ませると、テレビの音に混じって話し声が聞こえた。明瞭に聞き取れる訳ではない、誰かが話しているらしい、ということぐらいだったが。喧嘩でもしているのか、次第に大きくなる声に好奇心で耳を傾ける。
『…グ……ム!』
激昂しているらしいのに、やけに耳障りのいい、男の声。その声が、今、確かにパトリックの恋人の名を呼んだ。嘘だ、一瞬否定しにかかって、やはり、と諦めた。散々予想した通りだ。何も驚くことなんてない。グラハムは、自分以外の男と会っている。それは隣人だった。
別に拘束力を持った言葉も、契約も交わしていない。ただ身体を交わらせ、互いの好意を告げ、同じ家に寝起きしている、それだけだ。恋人だと言ったことはたぶん、ない。けれど。
1本目と同様、ほとんど吸わないままに短くなった煙草を捨て、ベランダから室内に入った。窓を閉める手が震える。寒かったからだ、そう呟いて鍵をかけた。夕飯を作る気にもなれずに、自室のベッドに倒れこむ。羽毛の掛布の中で丸まって目を閉じた。眠れる気もしなかったが、これでグラハムが帰って来でもしたらと思うと、どんな顔をしていいのか分からなかった。心のまま詰ればいいのかもしれない。殴ってしまおうか?だが、パトリックは自分で思うよりも恐らくはるかに動揺していて、暗闇でじっと黙り込むことしか選べなかった。
案の定玄関の鍵を開ける音がして、グラハムが帰ってくる。自室にまで入ってくることはないだろうと思ったが、リビングの灯りが点いてしばらくすると、ノックの音が聞こえた。
「…パトリック」
ああ、泣きそうな声だ、そう思った。けれど返事をできずに寝たふりを続ける。やがて、控えめな音をたてて扉が開いた。パトリックは身体を脱力させ、深い呼吸を繰り返した。足音と共にグラハムの気配が近づいてくる。
「眠ったのか」
きっと気付いているのだ。これは確認だ、とパトリックは思った。彼は今、眠ったことになっている。そっと、額にグラハムの指が触れて、そのまま髪を撫でられた。優しい手だ。苦しいほどに。
「君を、愛している」
パトリックが固まっているうちに、グラハムが部屋を出て行った。扉の音がすると同時に、ゆっくりと起き上がる。それから額に手を当て、さっきの掌の感覚を忘れるようにと髪をかき回した。前髪をきつく掴む。
「……ひでぇ男……」
悔しくて涙が零れた。あんな男なのに、見限れない。問い詰めて殴って、不誠実だと詰り、この部屋を出て行けばいい。なのに出来ない。愛していると言った目が澄んでいるのを知っている。グラハムにとってそれだけは真実なのだと知っている。
許すことも離れることもできずに、パトリックは泣きながら眠った。
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