皆様ハッピーバレンタイン!
ということで、明るいビリグラ…を…アレ?
おかしいな、ハッピーでラブラブな…アレ?
軽いタッチですがいちゃいちゃべたべたはしてませんorz
思ったよりいちゃらぶのベタ甘にならなかった…!
グラハムがぐるぐるしている話。乙女警報発令中です
本編1年前くらいの話。色々捏造してますがスルーしてくださ…!
会いたくなったときに会えないというのは、どうにも居心地の悪いものだな、とグラハムは思った。
そもそもが我慢ということを知らず、手に入れたいものは実力で手に入れてきた男である。また、一旦懐に入れたものはとことん慈しみ、愛おしみ、疑うことを知らない。その為、普段の態度に似合わず繊細なところがある。
今回その彼の繊細な部分を痛めつけたのは、恋人の不在であった。技術顧問として活躍する彼の恋人は、ほぼ彼の専属メカニックと見做されている。しかしながら、『MSWADの頭脳』と名高い能力を、むざむざエースの我儘…否、無茶な要望…否、性能向上の為の些か強引な意見の受け皿としてだけ使わせるつもりは、本人はともかく軍側にはなかった。次世代MSであるフラッグも完成し、滑り出しも好調、といったところを見計らい、軍は彼を別の重要プロジェクト監修としてMSWADから拉致…否、出張させた。期間は1ヶ月。1ヶ月、というと、然程長い時間ではない、と思われるかもしれない。だが、グラハムにとってはかなりの長さであった。10日程度ならば、自らの多忙の為に会えないこともある。だが、1ヶ月。4週間だ。5年ほど離れていた時期もあったから、耐えられると踏んでいた。だが3週間が経った辺りで、彼の繊細な心はめためたになってしまった。
『そもそも監修って何だ、それはカタギリでなければいけないのか、この基地にその本部を持ってくるのはどうだ、お前がいないと技術部の覇気がない、ちゃんと仕事を引き継いでいったんだろうな、私のフラッグのどこそこが調子が悪い、お前でなければ話にならない、とにかく早く帰って来い』
…と、いったような内容のメールを送りつけ、普段は余り嗜まない酒を入れて眠るくらい、グラハムは参っていた。勤務中は全くいつも通り振舞っているものだから、皆エースがそこまで参っているということに気付かなかった。……その日までは。
『その日』、グラハムはいつものように編隊演習を終え、メディカルチェックを受けて技術部に顔を出していた。先程の飛行データを端末で確認しながら、数値について2,3のやりとりをしている最中、前回気になると指摘した駆動系の反応速度の誤差値の件を思い出したグラハムは、何も意識せずにこう言った。
「カタギリ、ここの誤差が直っていなかったぞ。忙しいのは分かるがフィードバックして貰わないことには―」
はた、と言葉を切って顔を上げる。勿論技術部のメンツの中にカタギリの姿はない。グラハムは一気に青ざめるやら赤らむやら、とにかく動揺した。その珍しい姿に、技術部メンバーらは必死で笑いを堪えたり驚きを隠していた。あの中尉が赤くなっておられる!と内心で叫ぶものもいた。
「……失礼、カタギリ技術顧問から話がいっていなかったらすまないが、反応速度の件だ」
「ああ、そこでしたら、『様子見で頼むよ、戻ってきたら僕が直すから!』との言伝です。我々では判断しかねる非常に細かなデータ範囲でありますので」
冷静に応じたのは、いつもカタギリの補佐として活躍する青年だった。グラハムはそうか、ありがとう、と言って、そのなんとも言えず生ぬるい空気に耐え切れず、他はいい、常ながら素晴らしいクオリティの仕事だ、感謝する、と早口に告げ、技術部を飛び出すように後にした。その翌日から、基地内である噂がたつ。『エーカー中尉と技術顧問は夫婦だ』と。それはいつからか言われていた話であり、真実それに近い状態ではあるのだが、今までのそれは揶揄の範囲だった。実感を伴ったその言葉は、たちまちに浸透した。グラハムにとって幸いであったのは、彼は噂話の類に非常に疎かったことと、その話が驚くほど好意的に捉えられていたことだろう。…一部、技術顧問の熱烈なファンからは反感を買ったようだったが。
そんな好意的な視線はともかく、限界まで参ったグラハムは、勤務を終えると端末で恋人に電話するのが日課となっていた。その健気な行為は、忙殺されているためにほぼ通話に出られないカタギリによって全て無駄に終わる。それでメールをこれでもかと送りつけるわけだが、それも忙殺されているカタギリから返信が来ない。ほぼ音信不通である。あと何日か、がグラハムには耐え難かった。パイロットとは、いつスクランブルがかかって出撃するかも知れない職業である。であればこそ、「今」「このとき」を生きるいきものだ。このまま明日死んだら会えないのだ。そう思うとひどく弱気になった。その日は、ただ一言だけを送って端末を切った。
3日後、カタギリ帰還予定日の前日である。我らがMSWADのエースは、昨日まで極限に落ち込んでいたのが嘘のように、すっかり気迫を取り戻していた。明日、会える。それだけがグラハムの現在の支えだった。
「そういえば、明日ですね中尉」
演習後、シャワールームから出て直ぐの休憩室でハワードが言った。いつもは後ろに撫で付けている前髪が下り、些か幼く見える。
「何のことだ?」
グラハムは分かっていてそんな風にはぐらかした。
「明日…2月14日か。あー、中尉のことですから、引く手も数多っすね」
いつもは長い髪をひとくくりにし、タオルで首周りを拭っているダリルが、シャワー室から出てきながら言った。ハワードが意を得たというように二度三度頷く。グラハムは水を吸って普段よりも濃い色となった金髪をがしがしと拭いながら、小首を傾げた。カタギリの帰還以外に、何か予定などあったろうか。ハワードにもてっきりそれをからかわれるものと思っていたのだが。
「…明日、何かあるのか?」
「何って、St.Valentine’s Dayっすよ!中尉のヴァレンタインは誰かって、女の子たちみんな噂してますぜ?」
横からムードメーカーのジェイムズが割って入る。周りが皆注目する中、ああ、そういえばバレンタインか、とグラハムは納得した。そして、明日が技術顧問の帰還であるということに、皆がグラハムほど注意を払っていないということも。やはり自分は重症らしい、とグラハムは笑った。
「さて。諸君、そろそろ報告書でも書きに戻るとしようか!」
「中尉!はぐらかさないで教えてくださいよ!」
「明日はレストランからホテルコースですかー?!」
「お前ら、中尉がお困りだろう!」
「ハワードお前ホントは気になるんだろうが、素直になれ素直に!」
団子になって問いを重ねてくるパイロットたちをどうにかかわし、グラハムは上機嫌でデスクワークをこなすべく廊下を歩いていった。なんという素晴らしい偶然だろう。ヴァレンタインに恋人が帰ってくるとは!些か浮かれながら、彼は一日の仕事を終えた。
勤務を終え、基地の外れにある居住ブロックまで移動する。日が落ちるとひどく寒い。グラハムは皮手袋の手をぎゅっと握り締め、ハーフコートのポケットに突っ込んだ。カタギリがいるときといないときでは、体感温度が違う気がしてならない。グラハムは、スモッグやいろんな要因であまり星の見えない夜空を見上げる。近頃夜空を飛んでいないな、と思った。夜勤があまり入っていない。夜空を飛びたい、と思った。飛んで、カタギリに会いに行けたなら。ゆっくりと視線を戻し、また歩き始める。離れることがこんなに苦しいのだと、彼は初めて知ったのだった。
自室のセキュリティ・ロックを解除し、室内に入る。彼は顔を顰めた。灯りが点いている。自動消灯センサが壊れたか、といぶかしみながらリビングに行って、固まった。
「やあ」
グラハムは幽霊でも見たような顔をした。目の前で、あれほど会いたいと願い続けていた恋人がコーヒーを啜っている。何故今ここにいる、だとか、帰るなら連絡をしろ、とか、色々と言いたい事がグラハムの頭の中を廻りめぐったが、それらを吹き飛ばしてグラハムはカタギリにタックルをかました。いや、本人は抱きついたつもりだったが、勢い余ってカタギリが椅子ごと転倒し、小気味よい音をたててフローリングに後頭部をしたたかにぶつけたのだから、タックルと言って構わないだろう。
「痛いじゃないか、グラハム」
その、甘い声を聞きながら、グラハムは肺の空気を全て出す勢いで嘆息した。それから息を大きく吸うと、有無を言わさず恋人に濃厚なキスをした。角度を変え、深さを変え、存分に1ヶ月ぶりのその唇を味わう。満足する頃には息も絶え絶えになっていた。
「…熱烈な歓迎だねえ」
「煩い、連絡の一つも寄越さない薄情者め」
「ごめんね」
カタギリは謝りながらも嬉しそうに笑って、それからグラハムをきつく抱き締めた。離れていた時間を埋めるようにきつく。グラハムはカタギリの首筋に鼻先を擦りつけ、唇で食み、甘く噛んだ。官能を刺激されたらしいカタギリが、息を詰めるのが分かる。グラハムは笑って、身体を少し起こした。正面からカタギリを見つめる。眼鏡の奥で、柔らかく微笑む瞳が、自分だけを映している。不意に、今までにない発想がグラハムの脳裏に浮んだ。浮ぶと同時に口に出していた。
「結婚しよう、カタギリ」
「………は?」
グラハムは、これ以上素晴らしい提案はない、という風に嬉しそうに笑った。カタギリはと言えば、今までそんな気配もなく、しかもグラハムの嫌いそうないかにもムードのない状態だというのにプロポーズされたことに驚いていた。彼がもしもプロポーズしてくるとしたら、ホテルのスイートルームの窓辺で薔薇を渡されながらなのだろうと信じていたからだ。実際グラハムは、その予測を実現しそうな位にはロマンチストであったのだが、如何せん1ヶ月の別離があったから、そんな余裕も失っているらしい。2305年現在、ユニオン傘下の国家では同姓婚が認められている。カタギリにも何人か結婚している友人がいたが、やはり少数ではあった。そんなことをぐるぐると考えているうちに、グラハムが畳み掛けるように言った。
「君と離れるなど私には耐えられない。それがよく分かった。だから結婚しようと言った」
「ちょ、ちょっと待ってよ。結婚したところで、社会的に保障されるだけじゃないか。たぶん僕らの生活は然程変わらないんじゃないかな…同室にはなるだろうけど」
「だが君に遺産を残すことができる。どちらかが危篤になった時、臨終に立ち会うことも」
カタギリは息を呑んだ。グラハムは真剣そのものだった。数瞬の沈黙。グラハムは、ふっと真顔になっていた表情を緩め、カタギリの頬に触れ、髪を梳いた。
「私は、君のものになりたい。君を全て手に入れたい」
「グラハム…」
カタギリが、グラハムの頬を撫で、するりと滑らせた手で後ろ頭を引き寄せた。グラハムはそうされるままに、カタギリの胸に顔を埋める。とくん、とくん、と脈打つ鼓動が聞こえた。
「僕は全部君のものだし、君は僕のものだよ。だから――結婚は、君が退役してからにしないかい」
グラハムはカタギリの着ているセーターを握り締め、その言葉に耳を傾けた。そこに、カタギリの押し隠している切なる願いが込められているように感じて、グラハムは目を閉じた。彼は、いきようと言っているのだ。退役するまでグラハムが一人戦場で命を散らすことなく、ずっと共に歩み、そうして老いても傍で笑っていてくれと。
「君を愛しているよ。結婚なんかしなくたって、ずっと一緒にいたいと思ってる。今は、それじゃ駄目かい?」
顔を上げて、伸び上がるとカタギリに啄ばむようなキスをした。誓いのキスだ、と囁くと、カタギリがもう一度、とねだり、グラハムはその願いを叶えた。
その後場所をベッドに移して存分に愛を確かめ合うと、甘い疲労の中でふと、カタギリが言った。
「そうか、明日…もう今日か、ヴァレンタインだったんだね」
髪を梳かれるのが心地よくて、グラハムは目を細める。カタギリの首筋に額をつけ、ぐりぐりと擦りつけた。前髪が擦れてくすぐったかったのか、カタギリが笑い声をあげる。
「ねえ、やっぱり僕がいると地上に未練が残るかい?」
「いや。それはないな」
「だよねえ」
カタギリはそれでいいと常々言っていたし、グラハムもそう思っている。空にいるときは、全ての拘束から解き放たれ、彼は自由に飛ぶのだ。それは同時に果てしない孤独でもある。しかし、そんなグラハムをカタギリは愛したのだ。未練など抱いて欲しいわけではない。
「じゃあ、古代ローマの理屈は僕らには当て嵌まらないね」
「ああ、ヴァレンタインの由来か」
「まあ、伝説らしいけど…」
もっとも、結婚を禁止されたところで、目の前の男は挫けたりしないのだろう、とカタギリは思う。真面目だが情熱的なこの男は、愛の為ならば!などと言って予想外の行動に出かねない。そんなことを考えながら、、カタギリの指はグラハムの腰を辿る。背骨を撫で上げる動きは不穏だ。あっという間に体温が上がり、息を乱される。グラハムは、自分でも甘いと思う声でカタギリを窘めた。
「まだ、する気か?」
「だって、1ヶ月ぶりな上に、君があんなに情熱的に愛を告げてくれたからね、頑張らないと」
「…っ、あした、は、非番じゃ、…」
「でも夜勤だったよね?」
「ぁ、…ばか、」
そこから先は、恋人の時間である。カタギリが、久々に顔を出した技術部で、夫婦の片割れが帰還した!と大々的に祝われ、グラハムがやらかした失態を知って赤くなったり青くなったりする、10時間ほど前のことだった。
楽しいバレンタインを!×○×○
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