せっかくのバレンタインなので、ビリグラは2本うpしたいところです
現代パロビリグラ。切なく切なく…と例の呪文を唱えました、ら、
ハムが浮気しました。
許せん!てめえパトリックはどうした!という方は離脱してください。
正直これはひどい←
ネタはT様との萌え語りから頂きました。ウマウマ。
「君もずるい人だよねえ」
グラハムが顔を上げると、マグに口をつけながらカタギリが笑っていた。困ったような笑顔が、2年前の冬を思い起こさせる。グラハムはそうやって優しく責めるカタギリの言葉がせつなくて、長い睫を伏せた。
3年前。グラハムはカタギリと別れた。パトリックと出会い、そのくるくると変わる表情や、年上と思えないほどの無邪気さに惹かれ始めた頃だった。カタギリのことを愛していないわけではなかったが、もう潮時だと感じていた。惰性に陥るのはグラハムのもっとも嫌うところだ。
別れよう、と言うと、温厚なカタギリらしく、静かにただ一言、分かった、と言われた。それは確か行きつけの雰囲気のいいカフェだったと思う。グラハムは喉の渇きを覚えて、コーヒーを何杯も飲んだ。
『君がいつかそう言い出すんじゃないかって、ずっと怯えてた。もう怖がらなくていいと思うと、正直安心したんだよ。…今までありがとう』
カタギリは最後まで穏やかだった。伝票を取って店を出て行くカタギリの背中を、グラハムはぼんやり見つめていた。随分長く一緒にいたような気がする。年月を数えて驚いた。7年。人生の三分の一も、あの男と過ごしていたのだ。その日々にこんなにもあっさりと幕が下りるのかと思うと、どうにも不思議な気分だった。そういえば、カタギリのいない生活というのを思い描いたことがなかった、と気付く。グラハムはコーヒーカップを置いて、窓から見えるカタギリの横顔を見つめた。これから彼はどうやって過ごしていくのだろう、そう思うと胸が締め付けられた。
1年後、パトリックとルームシェアすることになり、本社の近くのマンションへと引っ越した。その頃にはもうカタギリのことも思い出になりかけ、パトリックへの恋に夢中になり始めていた。ところが、引っ越して数日後、エントランスで見覚えのありすぎるポニーテールを見かけた。驚いて声をかけると、なんと隣室に住んでいるという。何の冗談かと思う偶然だった。が、よく考えてみれば、カタギリの生活圏といったら勤める大学の近くに決まっていて、このマンションはまさに利便性の上で二重丸な立地だった。そんな場所を無意識にであってもチョイスしていた自分に、グラハムは愕然とした。未練があるならば自分の方なのかもしれないと。
カタギリは隣室であることを知ると、一瞬で顔色を変え、すぐにでも引っ越さなきゃな、と呟いた。なぜだと言うと、別れるときでさえあんなにも穏やかだったカタギリが顔を顰めてグラハムを睨んだ。それから、一度顔を伏せて二三度深い呼吸をすると、責めるように、泣きそうな顔で笑ったのだ。
『君は、君と誰かが幸せそうに笑ってる隣室で、僕が何も思わずに生活できるとでも思っているのかい』
その笑顔が余りに、取り繕った風で――その夜、グラハムはカタギリの部屋で眠った。パトリックに対してもカタギリに対しても酷いことをしていると知っていてそうした。結局、カタギリは引っ越すことはなかった。代わりに、グラハムは月に数度、隣の部屋で眠るようになった。カタギリから女性の香水が香るようになってからも、それは変わらなかった。
「…グラハム?」
カタギリの言葉で我に帰る。伏せた睫を持ち上げ、カタギリに笑って見せた。すっかり冷めてしまったコーヒーを啜る。長い髪を解き、セーターを着ている自宅仕様のカタギリを見慣れて、その眼鏡が3度変わるのを見てきて、好きな色や好きなドーナツの種類を覚えて。あの時、3年前の喫茶店で。2年前のエントランスのときのように、取り乱してくれていたなら、と少し思う。それを責めることは自分には出来ないと分かっていたけれど。
「…コーヒー、淹れ直そうか。冷えてきたね」
マグを持っていかれるとき、一瞬カタギリの細い指先がグラハムの手の甲に触れた。顔を上げると、焦らすようにゆっくりと唇が降ってくる。啄ばむようなキスが哀しかった。キッチンに立ってコーヒーを入れる後姿に、何故か泣きたくなった。どうすればいいのだろう。こんなことが、いつまでも許される筈がない。こんな強欲。どちらも等しく欲しいだなんて、自分は何も与えることなどできないのに。断罪を求めることさえ傲慢だ。
「君が好きだよ」
背中越しに、カタギリが言った。土に染み込む雨のような声だ、グラハムはそう思った。そうやって自分の中には、カタギリの柔らかい声がたくさん染み込んでいて、それが心地よくて、離れることなんて出来ない。
「…ごめん、僕も大概ずるいな」
自嘲気味に笑う声がして、それからコーヒーの香ばしい香りがした。マグを手にダイニングに戻ってきた彼は、すっかりいつも通りの笑顔だった。
それから、雑談を少しと、駆け引きを少し、ベッドでの戯れを少しだけして、いつもの通りグラハムは隣室へと帰った。パトリックが帰ってくるまでには、この顔をどうにかしなければならない、と思いながら、靴も脱がずに玄関のドア越しに座り込む。そこからしばらく動けずに、グラハムは俯いていた。もうやめたいのに、と、その言葉だけが頭の中をぐるぐると廻った。
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