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ガソダム00非公式ファンブログ /女性向け注意/オンラインブクマ禁止/無断転載禁止/ ユニオン中心!ビリグラ。時々アレハレティエとハムサワ。 ネタバレ配慮皆無、週遅れなし。 !15禁! キリ番踏んだぜ!って方は拍手かコメントでリクをいただければ最優先で何か書かせていただきますぜ旦那
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2024/11/22(Fri) 13:17:36

バレンタイン連作(と化した)その2。
現代パロ・ロクティエ。切なく切なく…と呪文を唱えながら夜中に書きました、ら、
まさかのどシリアスになった
この2人が本気で恋した時点でなんか悲恋の匂いしかしないんだ自分には…
ティエの性別をぼかしてみた
兄貴がずるい人
ゲストに誰かが出張ります

知識・数字=ヴェーダ的ポジション と思ってください。






 ティエリアは、幼い頃から、学問が好きだった。
 特に数字が絡むものが好ましい。そこにはティエリアと数字しか存在しない。何の嘘も欺瞞もない。データはデータでしかない。ティエリアを愛さない代わりに、脅かさず、拒みもしない、そこに在るだけだ。それがティエリアにはひどく心地よかった。プログラミングに魅せられたのも、それらが1と0だけで出来ているからだった。シンプル、かつシビア。美しいと思った。これに全てを捧げようと決めた。他に望むものなどありはしない、無機物だけでいいのだと。

 テスト週間を終えた校内は、全体が奇妙な高揚感に包まれている。皆解放感に溢れ、試験休暇の予定を話し合ったり、試験の答え合わせで一喜一憂してみたり、すぐさま教室を飛び出して部活に精を出したりと忙しない。ティエリアはその騒々しさが堪らなく不快で、早々に帰ることにした。学校指定の鞄に教科書や参考書類、趣味の本など諸々を詰め、放課後の誘いを果敢にもかけてくるクラスメイトから逃れ、足早に図書室へ向かった。
 外は曇っている。このところずっと悪天候が続いていた。ティエリアにとって、天候はデータの一つ、自然現象という解明すべき対象でしかなかった。強いて言えば曇りは好ましい部類だったので何ら問題ない。繊細な肌をもって生まれてしまったティエリアにとり、紫外線、日差しは歓迎すべきものではない。曇りであろうとUVカットのクリームは必需品であったが、気分として、曇りの方が気安く外出できる気はした。
 廊下は寒かった。ダッフルコートの前をぐっとかきあわせ、紺色のマフラーに細い顎を埋める。はあ、と息を吐くと、吐息が籠って伊達で掛けている眼鏡を曇らせた。ブリッジを人差し指で押し上げる。プラスチックのそれはひどく冷たかった。騒がしい生徒たちと何度もすれ違う。ティエリアには、時折彼らが自分とは別の世界に生きる人間のように思われた。自分は異質だった。
 階段を上る。図書室に入ると、試験が終わったからだろう、ここ最近の人口密度の高さは解消されていた。室内を一瞥して、迷いない足取りで新書の棚へ向かう。登下校時に電車の中で読む本を一冊、自宅で読む本を一冊の計二冊を放課後物色するのは、もはや習慣となっていた。読むペースが早いので、三年間の内にはめぼしい本はあらかた読みつくしてしまうかもしれない。ティエリアは国際金融がテーマのものを一冊と、シェイクスピアを一冊、無造作に選び出すと、カウンターで昨日の本の返却と貸し出し手続きをした。
 図書室から出ると、正面から見覚えのある長身が歩いてきた。軽く手を上げたその人物に、小さく会釈する。腰まで届こうかという亜麻色の髪をポニーテールに結った白衣の男は、いつものように眼鏡の弦を摘んで位置を直し、へらりと笑って見せた。
「熱心だねえ。今日は何を?」
「…貿易関係と『十二夜』を」
正直この男は苦手だった。それが同属嫌悪に近しいことを、ティエリアは自覚している。男―カタギリは、この学園の大学で研究生をしており、懇意な教授が高等部にも籍を置いていることから、この棟にもよく顔を見せていた。彼の師にあたるその教授とはティエリアも親しくしている為、カタギリとは世間話くらいの会話はする仲である。
「へえ。『あの人は本当は頭がいいから阿呆の真似ができるのね。上手にとぼけてみせるのは特殊な才能だわ』ってやつだね」
誰かを彷彿とさせる。カタギリがその一文をを意図的に選んだのは明白だったので、ティエリアは露骨に顔を顰めた。そのまま会釈して去ろうとすると、背後から声がかかる。
「これは独り言だけど、彼が君の救いになればいいと、僕は願っているよ」
大きな独り言もあったものだ。ティエリアはますます眉間に皺を寄せると、その場から逃げるように、一気に階段を下りた。

 電車に揺られながら、金融の方をぱらぱらと捲った。驚くほど内容が頭に入ってこず、苛々とそれを閉じる。カタギリが言った言葉がティエリアの内部で重く沈殿していた。
 救い。救い?一体何からの救済だというのだろう。救われたいとも思っていないのに、それは果たして救いだと言えるのだろうか。そもそもあの男といて、心安らいだことなど一度もなかった。ティエリアはいつだって、息の詰まるような閉塞感を感じている。この先どうやって生きていけば良いのか、あの男の前に立つと全く分からなくなる。長い溜息を吐いた。どこに答えがあるのかを探しても探しても、何にも見つからない。あの男との間に解を求めても、余計に分からなくなるだけだ。傍にいることにどんな意味があるのか、未だにティエリアは見出せずにいた。
 曇天の下を駅から7分のマンションまで歩くと、エントランス前に特徴のある茶色いウェーブがかった髪が見えた。男はティエリアに気付くと、よっ、と声を上げて手を振った。
「お帰り。寒かったか?鼻の先赤くなってる」
伸びてくる手袋越しの手を拒めない。頬に触れた短い皮手袋はひんやりとしていて、いつからこの男はここにいたのだろう、とぼんやり考えた。
「試験今日で終わりだろ。何か食べにいかないか、と思ってな。新しいオーガニックカフェ見つけたんだよ、お前の好きそうな。あ、もちろん家で食ったっていいんだが…」
ほら、また息が苦しい。頭の奥がつんと張り詰めて、男の顔がまともに見られない。ティエリアは、黙ったまま俯いて目をきつく閉じた。どうしてこんなに苦しいのかティエリアには理解できない。
「…どうした?」
溶けるような声を、この男以外に知らない。ティエリアは冷静になるときの癖で、頭の中で九九を唱えた。一の段さえまともに浮ばない。ごちゃごちゃの頭を、男の手が優しく撫でた。そのまま腕を引かれ、男の懐に閉じ込められる。暖かい。男の匂いがした。いつも纏っている薄い香水の香り、煙草と、それからたぶん射撃場の匂い。
「疲れたか?急に押しかけて悪かった、部屋、入るか?」
男の着ているダウンを強く掴んだ。男は、優しい。とても、優しい。けれどもその優しさは万人に降り注ぐ優しさで、それは誰にも特別な関心がないのだと主張することと同義だ、とティエリアは思った。男の本心など、一度として掴めたことがない。誰か知らない女と歩いているところを見たこともある。何度も。それでも、男はこうやって時折ティエリアを訪ね、真綿で締めるみたいに甘やかして、好きだと言ってキスをする。それがティエリアにとっては、とても、とても恐ろしかった。
「ティーエリアー?…困ったヤツだな」
吐息で笑って、男はティエリアを抱き締める腕に力を込めた。小柄なティエリアは、男にすっぽりと包み込まれてしまう。掴んだダウンから手を離し、その広い背中に腕を回した。
「何故貴方はここにいるんです…」
「夕飯に誘おうって、それだけだけど?試験終わる日は聞いてたし、俺も仕事上がるの早かったからな」
「そういうことじゃない。何故俺なんです、何故…」
男はティエリアの頭に顎を軽く乗せ、幾分腕の力を抜いて寄りかかるようにした。
「好きなんだって、何回言っても信じてくれないのな。お前に美味いもん食わせたいとか、思うんだよ、俺は。顔見たいし、できるならお前には笑って、幸せになってほしいって思うぜ」
耐え切れずに、ティエリアは男を突き飛ばした。緩められた腕から逃れるのは簡単で、それが男の執着の薄さのような気さえして、余計に気が滅入った。
「何が幸せかも分からないのにどうやって幸せになれっていうんですか。笑うっていうのなら貴方も、貴方も本当の顔で笑ったことなんかないじゃないか。それが苛立たしいというんだ、自分ばかりできた人間の振りをして僕には何にもないのを見て安心してる、そういうところが堪らなく不愉快です」
男は何も言わずに顔を顰めた。それに一瞬怯んだが、ティエリアは衝動のまま叫ぶ。
「私は、汚くてもいい、貴方にふれたい。貴方を知りたい、如何して俺がこんなに苦しいのか知りたい、如何して貴方を前にすると知識の前に従属できなくなるのか知りたい…!」
ティエリアは混乱していた。一人称が混ざるのは極度に混乱したときのティエリアの特徴だった。アイデンティティの根本を揺るがされるとき、ティエリアには自分が何者なのかが分からなくなる。きつく握り締めた手が痛い。頬に当たる風があまりに冷たくて、いつの間にか涙を流していたことを知る。乱暴にそれを拭おうとすると、その腕を強く掴まれた。顔を上げると、男の泣きそうな笑顔が見えた。呆然としている間に、手袋を外した指先でそっと涙を拭われる。そうして瞼の上に羽みたいに軽いキスを落とされた。
「俺と一緒にいてティエリアが幸せになれるかどうかは分からない。お前の幸せを俺が一緒に探すってのはどうだ?お前は何が好きで、何をしているときが楽しいのか、俺も知りたい。それが俺の幸せだ」
 ティエリアは一つ、頷いた。頷きながら、また閉塞感に包まれるのを感じた。今の笑顔と素肌の指先は、きっと男の本質だったろう。けれど、やはり完全に男の内部に踏み込むことは、まだできていないようだった。それがティエリアには歯がゆく、悔しくて、苦しかった。こんなに苦しいのに、どうして一緒にいるのだろう、そうして、また問いがループした。ループの中、男の指先や声や腕はどうしたって優しくて温かくて、ティエリアはまた男から逃れる機会を逸するのだ。そうして傷つけあいながら繰り返すしかないのかと思うと、どうしたって涙がでてくるのだった。男は、ティエリアにとって救い足りえない、ティエリアにはそう思われた。だってこんなにも、ここから救い出してほしい。



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2008/02/12(Tue) 07:59:16
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