ガソダム00非公式ファンブログ
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ユニオン中心!ビリグラ。時々アレハレティエとハムサワ。
ネタバレ配慮皆無、週遅れなし。
!15禁!
キリ番踏んだぜ!って方は拍手かコメントでリクをいただければ最優先で何か書かせていただきますぜ旦那
誰かと語り合うと萌えって増幅しますよNE それから僕は、しばらくの間彼の質問に答え、資料を貸し与え、これからのMS産業についてや軍備の展望、果ては世界情勢についてまで様々な議論をした。彼の意見は一貫していて小気味良かったし、皮肉の効いた口調もテンポがよかった。もしも僕が女性だったなら、その些か耳障りの良すぎる声と、じっと見つめてくる真っ直ぐな視線のせいで内容が頭に入ってこなかったかもしれないけれど。
すっかり話にのめりこんでいたら、いつの間にか日が落ちて外が暗くなっていた。もともとが暗い部屋なので、僕ら研究室の人間は昼夜の変化に敏感ではない。彼はさぞ暗さに辟易していただろう。
「すまなかったね、随分引き止めてしまって」 「いえ、興味深いお話ばかりでした。有意義な時間をありがとうございます」
彼は礼儀正しく言って、それからふと目を瞠って数度瞬きをした。大きい目の端が歪み、苦笑の色を湛える。
「今更ですみません。グラハム・エーカーと言います」
ああ、そうだった。互いの名を知らぬまま、何時間も話し込んでいたのだ。随分奇妙な話だった。どうして今まで気づかなかったのだろう?初対面だというのにあまりに滑らかに会話が進むものだから、何だか彼のことをよく知っているみたいに思い込んでいた。恥ずかしい話だ。僕は慌てて手を差し出した。
「僕はビリー・カタギリ。響きが珍しいからなのかな、ファミリーネームで呼ばれることの方が多いよ」
彼は僕の手を思ったよりずっと強い力で握り、ゆっくりと放した。その顔立ちに似合わず、幾分しっかりした、硬い皮膚の掌だった。今考えれば、それはMSの操縦桿ダコだったのだろう。彼は、僕と出会ったときには既に立派なMS乗りだったのだ。
「僕のことは、グラハムと。ファーストネームの方が好きなんです」
終始明るい表情を浮かべていた顔が、一瞬翳った気がした。彼は肩を竦めてさらりと言っただけだったが、ファーストネームが好きだと言うその陰に僕は何らかの鬱屈を感じ取った。ファミリーネームは自由奔放な彼を唯一縛るものなのかもしれなかった。
「そうだ、もっとフランクに話してくれて構わないよ。また君と話がしたいし、敬語だといろいろとまどろっこしいだろう?」
彼は正直助かる、敬語は苦手だよ、と零して悪戯っ子みたいに笑った。
「カタギリ!」
その日から、グラハムは校内で僕を見つけてはそう叫んで走ってくるようになった。走ってくるや否や議論を吹っかけてきたり突拍子もないことを言い出したりするので最初は面食らったが、そのうちそんな風に振り回されるのが楽しくなってきていた。僕は必要以上に研究室に居座ることを止め、空いた時間は彼と過ごすようになった。
彼の言い出すことは本当に突拍子も無かった。MSについての真面目な議論の時にも、随分独創的な意見を出してくる人だったが、それは普通に雑談している時でも構わず発揮された。中でも傑作だったのは、女性週刊誌片手に真剣な顔をして、星座占いの根拠は何なのかカタギリ知っているか、と切り出してきたときの話だろう。案外ロマンチストなんだねとからかうと、至極真面目に「そうなんだ、これは随分当たるんだが何故だろうか、やはり統計なのだろうか、しかし信じるのも悪くはない、何故なら乙女座は今月云々」と語りだしたのだ。僕は堪えようと思ったんだけれど、やはり人間できることとできないことがある。食堂の隅で爆笑しだした僕に憤慨して、何故笑う!と立ち上がった彼の顔が忘れられない。これだからグラハムは面白い。
一方で、MSの研究にも以前より更に熱が入るようになった。彼のぶつけてくる疑問や不安は、常にパイロットの視点からのものだ。しかも動力や原理をしっかり知った上での発言だから、それらは非常に有用だった。疑問点をリストアップして一つ一つ検討を重ね、そうして知識が着実に増えていくことが何より楽しい。僕には飛びぬけた知識や才能はなかったけれど、パイロットと相談しながらMS技師にそれらを伝えるコーディネーターならば向いているのではないかと思い始めていた。
ある日の午後―季節は確か夏だったと思う―僕はグラハムといつものように昼食を採っていた。ベンチの隣に腰掛け、ベーグルとコーヒーを交互に口に運ぶ。特に目新しい話題もなかったので、僕はコーディネーターのことを話した。機械弄りは好きだが飛び抜けて能力が高い訳ではない、だから、メカニックになるより向いている気がしている、と。すると、彼はぐいと身を乗り出し、至近距離でその大きい目を瞬かせた。こういった突飛な行動には幾分慣れていたが、流石にいつまでもそうしていられると動揺する。何せ、彼の造作は無駄に美しいのだ。
「何だい、そんなに身を乗り出して…」
「それは、本気で言っているのか?」
ただただ純粋な疑問だという調子で彼は言った。僕は頷いて、そりゃあ、そろそろ進む先くらいちゃんと決めないと、と答える。面倒で切っていない前髪が邪魔で、掻き上げて後ろに流した。彼は元の通り背凭れに寄り掛かって足を組むと、ふむ、と一息吐いた。それから怒涛のようにこう言った。
「君に飛びぬけた才能がないなんてどんな皮肉だ?むしろ実践する段になれば最も優秀な人材に思えるが。体系立った広い知識、好奇心、遊び心、何よりパイロットの癖や特性にさえ気を配ろうとする徹底した調査能力・洞察力、広い視野。どれもMSのメカニックには欠かせない要素だろう。言う必要もないと思っていたが、先日教授に言われたんだぞ。カタギリを早く現場に出したいのだと。僕の言葉が信じられなくとも、恩師の言葉は別だろう?」
「…何だか、君の言っていることの方が冗談に聞こえるよ」
「おかしなところで謙遜するのは悪い癖だな。いいか、」
彼は、膝の上に置いていた僕の腕をいきなり掴んだ。強い力だった。握手を交わしたあの時に感じた逞しさを思い出した。
「僕はカタギリの作ったMSに乗りたいと、いつも思っている」
ああ、そうか。僕は彼の為に生まれてきたのか。
そんな言葉が僕の頭に降ってきた。降ってきたとしか言いようがない。その時のグラハムの目を見て、言葉を何度も耳の中で反芻したら、そうとしか思えなくなったのだ。狂っているのかもしれない。それでもいい、他でもないこの人間の、グラハム・エーカーの為に生きられたら最高の人生なんじゃないか、そう思った。
だって彼は僕の手を取ってくれたじゃないか?
「本当に…君って人は、…!」
自然に、気の抜けた笑いと溜息が漏れた。絶望と幸せの溜息だった。
To be continued… PR 2007/12/11(Tue) 23:20:30
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